AbstractsBiology & Animal Science

Water-column light utilization efficiency of phytoplankton and transparent exopolymer particles in the western subarctic Pacific

by 裕一 野坂




Institution: Hokkaido University
Department: 環境科学
Degree: 博士(環境科学)
Year: 2014
Record ID: 1231727
Full text PDF: http://hdl.handle.net/2115/55434


Abstract

西部北太平洋亜寒帯域は,生物による海洋表面の二酸化炭素分圧( pCO 2)を下げる季節的な効果が全海洋中で最も高い海域の1つであり,これは主に,春季の珪藻ブルーム(大発生)による高い基礎生産力起因すると考えられている.北海道の北東,カムチャツカ半島の東部に位置する西部北太平洋亜寒帯の循環域は,アラスカ海流,東カムチャツカ海流,親潮海流,亜寒帯海流から構成される反時計回りの循環型海流域である. 夏季の循環域は,植物プランクトンの増殖が主要栄養塩類よりもむしろ,鉄濃度によって制限される HNLC(high-nitrate, low-chlorophyll)海域である事が知られている. HNLCの循環域において,植物プランクトンによる水柱の光合成光利用効率(以降,Ψ)の調査は幾度か行われてきたが,その知見は少ない.そこで,本研究では2008年夏季の循環域と亜熱帯―亜寒帯移行域におけるΨを調査した.さらに,2001年と2004年に行われたHNLC海域での2つの鉄添加実験(SEEDS-IとSEEDS-II)のΨ値を見積もり,Ψと植物プランクトン群集組成の関係等を詳細に調査した.その結果,循環域におけるΨ値は,同じ日積算の光合成有光放射( PAR )照度で比較したとき,全球海洋で得られたΨの上限値よりも高い値が得られる事が明らかとなった.SEEDS-IとSEEDS-IIでは,鉄添加により一時的な植物プランクトンブルームが観測されたが,Ψ値には有意な影響を与えかった.しかしながら,2008年航海,SEEDS-I,SEEDS-IIの3航海におけるΨ値と植物プランクトン群集組成の比較から,高いΨ値には独立栄養性の鞭毛藻類が関係していた可能示された.本海域の夏季においてこれまでに報告されたΨ値を取りまとめた結果から,同じ日積算 PAR照度で比較したとき,循環域は全球海洋のΨ値よりも平均的に高いΨ値が得られる事が明らかとなった.このことは,西部北太平洋亜寒帯域で報告された高い生物炭素ポンプ効率に影響しているかもしれない. 高いΨ値と高い生物炭素ポンプ効率は北海道に近い親潮域の春季珪藻ブルームにおいても報告されている.しかしながら,沈降粒子を接着させ,生物炭素ポンプ効率を高める透明細胞外重合体粒子(以降,TEP)の研究は一度も行われていない.海水中のTEP濃度は,珪藻ブルーム最盛期に高まる事が報告されているが,一方でブルーム終焉期にTEP濃度が高まる事も報告されており,珪藻ブルーム期の TEP生産機構は良く理解されていない.よって,2010年と2011年に行われた春季親潮珪藻ブルーム期のTEP調査航海に参加し,春季親潮珪藻ブルーム期のTEPを調査した. 尚,TEPはアルシアンブルー染色後,分光光度法によって濃度を決定した.海水中のTEP濃度はブルーム最盛期に高まり,ブルーム終焉期で低下する事が示された.混合層深度内のTEP濃度は, Chl a濃度と共に有意に増加した事から, TEPは主に植物プランクトンに由来していた事が示唆された.しかしながら,TEP濃度とTEP前駆態物質であるDOCの生産速度との間には有意な相関が見られなかった.そのため,TEPとTEP前駆態物質は,バクテリアによる分解や動物プランクトンによる捕食,移流や混合などの物理過程に影響されていたと考えられた.より詳細なTEP生産過程を理解するために,春季親潮珪藻ブルーム最盛期で優占した珪藻類 Thalassiosira nordenskioeldii を使いて室内培養実験を実施した.本株は 2011年の航海で現場から採集され,単離・無菌化された.海水の栄養塩濃度は春季親潮珪藻ブルーム発生前の濃度に調整,水温はブルーム最盛期の温度に調整,光照度は約100 µmol photons m-2 s-1に調整し,12時間:12時間の明暗周期で培養を行った.培養は 40日間行われ,このうち,0–28日目は対数増殖期,28日目以降は定常期であった.ボトル中のTEP とDOC濃度は培養日数と共に増加した.対数増殖期における細胞当たりの TEP生産速度とDOC生産速度との間には有意な相関があり,TEPはT.nordenskioeldiiから排出されたDOCの一部から生成されていた事が示唆された.また,細胞当たりのTEP生産速度は,定常期よりも対数増殖期において有意に高かった事ら,親潮春季珪藻ブルーム最盛期で得られた高いTEP濃度は,珪藻類の高い生物量と細胞当たりTEP生産速度に起因していたと考えられた.本研究において全球の上限値を超える高いΨ値が観測された事から,西部北太平洋亜寒帯域は,植物プランクトンによる光エネルギーから有機炭素への転換効率が全海洋中で最も高い海域ある可能性が示された.さらに,親潮域おいては,ブルーム最盛期の珪藻類が海水中TEP濃度を高める事が明らかとなり,本海域における高い生物炭素ポンプ効率に寄与している事が示唆された.